登山前夜
[Japanese only]
いよいよ出発。7月19日は平日だが、年休を取って休みとした。早朝出発し、ペナン空港よりクアラルンプール、ブルネイ経由でコタ・キナバルへ向かう。この移動だけで結構時間がかかってしまい、コタ・キナバルのホテルに入ったのは午後になってからだ。ブルネイからコタ・キナバルに向かう飛行機の窓からは、美しい海岸線と澄んだ海が見える。半島西海岸とは大違いである。
コタ・キナバルの空港は、かれこれ40以上の空港を経験してきている Kanao にとっても印象深い空港の一つである。滑走路の横は真っ青な海なのだ。飛行機は透明な海の上を滑空してきて、突然、コンクリートの滑走路に着陸する。空港の敷地内には椰子の木の葉が揺れている。「ああ、南国に来たんだ」というのが実感できる。こんな雰囲気を味わえたのは、ケアンズの空港やハワイ島のヒロの空港に降り立った時以来な気がする。
コタ・キナバルはマレーシアなのだが、半島側から行くと、改めて入国審査がある。このあたりはインドネシア、ブルネイが陸続きであり、また、フィリピンからは物騒がせな人たちが無断で入り込んでくるので、警戒を強めているのであろう。もちろん、日本人観光客が厳しく問い詰められることは無い。
空港を出ると現地の旅行社の人が迎えにきていた。ベンツ製のバンに案内されるままに乗り込み、コタ・キナバルのダウンタウンまで30分強のドライブ。「このバン、投資回収にどれぐらいかかるんだろう」などとつい考えてしまうのは、職業病。車窓の風景は半島西海岸よりは田舎な感じ。いずれにしても、マレーシアに住んでいる私達には、そう目新しい物ではない。街外れの海沿いに立つ「一応」リゾートっぽいホテルに、案内される。
ホテルの前は、道路を挟んで海。しかし、飛行機や、空港で見た美しい海と違い水は汚い。コタ・キナバルは河口に位置しているのだ。そういえば、観光地として名高いケアンズも、その町の前の湾はドブのようであった。そこまでひどくは無いにしても、このホテルから歩いて行ける海に入りたいと思う観光客は居ないだろう。私達の目的は登山であり、水着すら持って来てはいないのだが、これはあまりに意外であった。綺麗な海に浸かりたい方は、くれぐれもダウンタウンのホテルを予約しないように。
ホテルの位置を地図と方位磁針を使って確認。海は北西にある。ということは、目指すキナバル山は南東、ホテルの正面から見て、ホテルの裏側にあるはず。海辺からの距離とキナバル山の高さからして、十分に見えるはずだ。しかし、天気は良いのだが、南東方面には雲がありそれらしき物は見えない。明日に期待しよう。
ホテルのチェックインを済ませたロビー氏と Kanao は、ホテルからほんのちょっと離れたショッピングセンターへ。とんでもないド田舎を想像してきた私達には意外なほどモダンな建物。水と非常用食料のチョコレート等を調達。遅い昼食も食べた。土地の食べ物でも試してみたいところだが、腹でも壊したら、明日の登山がパーだ。つい慎重にになり、KFCで食事。
その後、海沿いの市場を覗きに行く。青空市場には生きの良い取れたての魚がこれでもかと並び、威勢の良い声が飛び交う。イカン・バカ(焼き魚)やチキン・ウイングを焼く煙が立ち込める。屋根のある果物市場にはまだ緑色のバナナが山と積まれ、中にはマレーシアに住んでいる私達にも見慣れない果物も並んでいる。
さらに進んでいくと、フィリピン・マーケット。ここはみやげ物屋。似たようなみやげ物屋がそれこそ100軒ぐらいは入っていそう。後日、ここで土産のTシャツを買ったのだが、その後で同じ物をショッピングセンターでもっと安く売っているのを見つけてしまった。やはり観光客相手に高い値段を付けているのだろう。
夕方、自由時間の後、ロビー氏と待ち合わせて夕食へ。まずは、無難な線でホテルの裏の韓国焼肉屋へ。しかし、開店時間になっても開かず、中を覗き込んだ私達を見て従業員が笑っている。態度が悪い。「却下!!」。ロビー氏が何時に無い怒気を含んだ声で一蹴。逆鱗に触れてしまったようだ。
次は「マラッカなんとか(名前は忘れた)」という店。マラッカということはポルトガル料理かもしれないと、客引きに確認。「ポルトガル料理か?」「Yes, yes, please!!」と連れ込まれ、席についたが、渡されたメニューを見ると、何か変だ。ウエイトレスのおばさんに再度確認。「どれがポルトガル料理なんだ?」「うちは中華だ」「あいつはポルトガル料理だと言っていたぞ」「そんなことは無い。どれも美味しい。食べていかない手は無い」…却下。言葉が通じていなかったようだ。こういうことは、マレーシアでは良くある。
観光地図を片手に歩き回ること小一時間。どのレストランもピンとこない。最後は、ちょっと遠いが、Portview restaurant というのを訪ねてみることにする。海沿いの道を歩いていくと、ちょうど日没。空と海が紫やピンクに染まり、絶景。気に入ったレストランが見つからなかったのも、塞翁が馬。
はるばる歩いて到達したこのレストラン、はっきり言って、大当たり。とてつもなく美味しい。ペナンにも海鮮レストランはたくさんあり、美味しい料理を出す店もあるが、「それらよりも美味しかった」と言い切れる。決して「旅先」というスパイスが降りかかっているからではない。
Kanao は味に関しては結構シビアだ。どんな感動的な場面であっても、不味い物は「不味い」と言い切る自信がある。はるばるフランスはマルセーユまで行って、そこが発祥の地と聞いて食べたブイヤベースは、一口食べて「不味い」と言い切った実績もある。もちろん、こんな辛口の批評をするのは、自腹を切って食べている場合の話ではあるが。
大シャコを見つけて大喜びのロビー氏と Kanao。ペナンの流儀に則って注文。「BBQにしてくれ」「だめだ。シャコはスチームするものだ」「いや、俺達はBBQが好きなんだ、頼む」「だめだ。うちは香港スタイルなんだ」…。しかたなく折れる二人。しかし、直ぐに店が正しいことを思い知る。そして、シャコだけではない。貝も野菜もナシゴレン(チャーハン)も美味しい。登山前夜は大正解。幸先がいいぞぉ!